世界のロボット事情と日本の現状

こんにちは。編集長です。以前のセミナーのレポートなのですが、途中まで書いていろいろ悩んでいるうちに掲載が遅くなってしまいました...

5月13日にIEEEのプレスセミナー「世界のロボット事情と日本の現状」を聞きに行ってきました。スピーカーは東北大学大学院工学研究科の教授であり、IEEE Robotics and Automation Societyのプレジデントでもある、小菅一弘先生です。

まずは、ロボットの歴史についての説明がありました。オートマタやからくりから、ヒューマノイドロボットなどにつながる、純粋なサイエンスの研究としてのロボットと、1947年から1951年頃に作られた機械式遠隔操作マニピュレータから現在の産業用ロボットに至るまでの流れの紹介でした。

つぎは、文部科学省科学技術政策研究所(NESTEP) 科学技術動向研究センターが2010年2月に発表した「IEEE定期刊行物における電気電子情報通信分野の領域別動向-日本と世界のトレンドの差異-」という報告書を元にした、日本と世界の違い、現在の日本の位置といった内容で、非常に興味深いものでした。

IEEE(Institute of Electrical and Electronic Engineers)は、電気・電子分野における世界最大の学会です。会員は米国が一番多いのですが、米国以外も半数近く占めています。今回のセミナーでは、IEEEに提出されている論文数が、日本は他国に負けてきている、というところからはじまりました(1992年から2007年までの推移を比較)。日本は2004年までは米国に次いで2位だったのですが、2005年に中国に抜かれました。これは、日本は論文数が横ばいですが、中国は2000年前後から急激に伸びています。抜かれてはいないものの、カナダや韓国、台湾なども伸びてきており、1位米国、2位中国と、日本を含めた第3位集団となりそうな状態です。

また、研究分野が多様化してきており、トレンドも変化してきています。現在は通信、信号処理など情報通信系が中心で、磁気学や電子デバイスなどは存在が低下してきています。ちなみに、ロボット工学は文献数はそれほど多くありませんが、増加率が高く、急速に発展してきている分野です。

情報通信の分野という、トレンドの中心を引っぱっているのは米国、カナダ、英国。ちなみに日本はこの分野での文献数は伸びておらず、磁気学や超伝導、絶縁・誘導体など電気系の割合が多くなっています。急速に発展してきている分野であるロボット工学は標準的な割合だそうです。
なお、中国は情報通信・制御などの比較的新しい分野を中心に伸びていますが、ある特定の分野に偏っているのではなく、分野のバランスは良いそうです。

この報告書は、文部科学省科学技術政策研究所のホームページからダウンロードが可能です(PDFファイル)。全部で255ページと、なかなか重量のあるページ数ですが、興味のある方は見てみてください。各専門領域におけるソサエティ(IEEEの活動の基本単位となる組織。1つのソサエティは数千から数万の会員で構成されています)別の、日本や文献数上位12カ国の動向など、さまざまな分析結果がまとめられています。

その次は「米国のロボット事情」という内容で、まずは2009年5月に公開された「CCC Robotics Roadmap:From Internet to Robotics」が紹介されました。Georgia Institute of TechnologyのHenrik I Christensen博士らが中心となって作成したものです。大学などの学術系だけではなく、企業もかかわっているとのこと。

のっけから「ロボティクスは経済成功の鍵である」と言っていて、ロボット技術はいろいろなところに応用できるから、いろいろな分野でロボットの開発をしようと促しているようです。製造や物流、医療などいろんな分野でロボティクスを活用ことによる効果などもまとめています「CCC/CRA Roadmapping for Robotics」のホームページから最終報告書がダウンロードできます(英語です。当たり前ですが)。

米国のロボットとして紹介されたのは、KIVA Systemsのロボット。倉庫の棚がロボット化されているといえば良いのでしょうか。ホームページで紹介ビデオも見られます。このロボットシステムは、自律分散型ロボットの研究を元に事業化しているそうです。

セミナー会場にはPAROやIRSの能動スコープカメラ、レスキューロボットKenaf、小菅研のRT-Walkerの紹介やデモが行われました。

PAROはデンマークではセラピーの効果が認められ、1日の講習による免許制度とともに導入が開始されたそうです。この制度で誕生した「パロ・セラピスト」は現在まで200人を超え、100箇所の高齢者や精神障害者施設などで導入されているそうです。デンマークは2011年までに1000体の購入予定とのことです。同じような制度がオランダやノルウェーでもはじまっています。
米国では2009年9月にPAROをクラス2の医療機器に認定し、12月から販売が開始されています。

IRSは、能動スコープカメラが、米国のJacksonvilleの駐車場建設現場倒壊事故の原因調査で活用されたり、レスキューロボットKenafが、米国にある災害救助訓練施設Disaster Cityの訓練に参加して、アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁(Federal Emergency Management Agency of the United States:FEMA)の隊員から高い評価を得られたそうです。
ちなみに、4月に発表された「Kenaf」の後継機「Quince」も、Disaster Cityの訓練に参加する予定ですね(期日未定ですが)。

小菅研のRT-Walkerはモータではなくサーボブレーキによって制御される歩行支援機です。支援される人が立っているのか、座っているのかをセンサで感知して、ブレーキを制御します。実は私、数年前に展示会で体験させていただいたことがあります。
また、映像のみでしたが、PaDY(in-time Parts/tools Delivery You robot)も公開されました。組み立て工程の現場で使用する、必要な道具やパーツを人に届けるロボットです。

まとめとして、ロボティクス分野の中核的な課題は「実世界における物理的サービスを実現するための不良設定問題(ill-defined problem)への挑戦」であると述べられました。「現実にサービスが提供される空間は、時間的にも空間的にも境界条件を厳密に定義することができない無限定な環境であって、このような環境で必要とされるサービスを実現できるロボットを設計しょうとしても解が得られないことが多い」(独立行政法人科学技術振興機構開発戦略センター"科学技術未来戦略ワークショップ(電子情報通信系俯瞰WS IV)報告書"、CRDS-FY2009-WR-04, 2009))が、それをどうやって解いていくのかが、研究者たちの取組みだということです。
ただし、日本と世界では、ロボット研究の位置付けが違っていて、日本では純粋なサイエンス指向の研究(サイエンスを推進するためのツールとしてのロボットの研究)が注目されて、成果を上げています。しかし、このままで良いのではなく、IEEEのような国際的に活動を行っている学会に所属して、世界的な視点から現状を把握し、自分の立ち位置を見直したほうがいいとまとめられました。

ロボット単体ではシステムとしては役に立たないと小菅先生はおっしゃいます。ロボットの研究もシステムとしての提案として受け容れられないと難しいのではないかとのことでした。また、ロボットができあがっても、それを実用化に必要な使い方の実証研究のサポートが少ないそうです。そのための省庁の連携も必要ではないかとの指摘が、PAROの開発者である、柴田崇徳先生(内閣府 科学技術政策・イノベーション情報通信担当)からありました。

講演が終わったあとに、小菅先生にお話しを伺っていたときに、da Vinci(手術支援ロボット)のホームページで対応できる病気や、Da Vinciを採用している病院や医師を検索できるようになっているのを見せていただきました。検索すると、その医師にメール連絡がとれるようになっていたりします。私たちが、腕の良い医師や、この設備が整っている病院を探すのと同じ感覚で、da Vinciで手術ができる医師がいるところ、PAROでセラピーをうけられる施設を探している、というようになると、ようやくロボットが社会に入ってきたなと思えるようになるのかな、と思いました。

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