こんにちは、編集長です。
1月6日に東京大学で行われた、NEDO特別講座・公開シンポジウム「第4回ロボット感動教育シンポジウム」を聞きに行きました。ロボマガの編集顧問でもある、森政弘先生が基調講演を行い、株式会社ロボット科学教育の鴨志田英樹代表取締役社長と、フェリス女学院大学専任講師の内田奈津子先生による招待講演もありました。
森先生の講演のテーマは、「物作りは人作り-ロボコンで生まれ変わった子供たち-」でした。まずは、森先生ご自身の物作りから始まりました。小学校4年生のときに、物を作ることに夢中だったそうです。ラジオの真空管がとても魅力的で、将来は電気の技術者になろうと思っていたそうです。「人間は感動がなければだめだ」とのこと。森先生もラジオの真空管に感動したからこそ、電気の技術者という夢をもったのです。

森政弘先生
自作の飛行機の模型を持った小学4年生当時の森先生の写真や、終戦直後に作られた短波受信局の写真も見せていただきました。短波受信局は、焼夷弾の破片などを使って作られたそうです。穴をあけるのもハンドドリル。なんでもある現在からは想像がつきませんが、いろいろなものを活用して作られていたんだなと思います。

小学校4年生当時の森先生。手に自作の飛行機模型を持っています。

森先生が終戦直後に作られた短波受信局
物を作っていると、物との会話がたくさんでてくるそうです。物作りに夢中になると、物とのおしゃべりをたくさんするので、孤独だなんて思わないとおっしゃっていました。
さて、森先生が東京工業大学で、ロボットコンテストの起源となった授業を始めたのは1981年頃。きっかけは、学生の顔がぼんやりしていると気がついたからだそうです。これではいけない、学生たちに興味をもたせ、元気づけなければと考えたのが、単一乾電池1個で、人の乗せる車という課題を与えることでした。製作にかけられる予算は30,000円。4つのチームに分けて行いました。
これには、学生たちも目を輝かせてチャレンジしたそうです。その間に、自分たちの考えた仕組みで走るかどうかを尋ねる学生もいます。その時に森先生は「わからない」と答えたそうです。これにより、学生たちは先生もわからないなら、自分たちでやろうと考えはじめたとのことです。
こうして、参加した学生たちはアルバイトも忘れ、徹夜をするほど夢中になっていたそうです。超大容量のコンデンサを作ったり(3.3Fのコンデンサを30個つなげた)、ルールすれすれとはいえ、自転車そのものではなく、スタート台の工夫をしたりと、さまざまなアイデアが出てきたそうです。
当時の写真も見せて下さいましたが、アイデアの発表会の時には、他の授業の学生も見に来たり、ワイワイと賑やかで楽しそうな雰囲気になっていたそうです。確かに、どんなものができあがるのか、興味津々になるのはわかります。
さて、その次は八戸第三中学校でのロボコンのお話になりました。八戸三中でロボコンが始まったのが1991年。当時は教育困難校だったのですが、ロボットを作り始めると、生徒たちの顔が変わってきたそうです。ロボコンを経験した生徒たちの感想文も紹介されましたが、物を大事にすることを学んだり、自分の作ったロボットは子供のように思えるようになったり、このロボコンを開催した下山大先生にあえてよかったと書いていた生徒もいました。
また、ロボコンを見ている生徒たちも笑顔があふれていて、とても楽しそうでした。
このあたりは、『ロボコン博士のもの作り遊論』『機械部品の幕の内弁当-ロボット博士の創造への扉-』という書籍でも紹介されています。関心のある方はぜひ読んでみていただければと思います。
森先生は、事とは正反対のものが協力しあってできるとおっしゃいます。車が走るためにはアクセル(走る)とブレーキ(止める)の両方がないとできないのです。
また、物が役に立たないと言いますが、それは自分たちが役に立てられないのだとのことです。物に対する姿勢を考えらせられる言葉でした。
このあと、ものづくりに夢中になることで、自己も時間も忘れることなどをお話いただきました。つまり、普通は見るもの(自分)と見られるもの(外界の対象)の二つに分かれていますが、一生懸命、夢中という精神集中の状態になると、内的な意識の中から自分というものが消滅してしまい、対象だけになるのです。この状態が雑念のない精神統一がとれている状態で、そのときの心が「無心」だそうです。このような状態が身につくと、個人の中にある「宝」が表に現れるそうです。森先生は「醜いベールを剥がし、中から宝が現れる」と表現されていました。なお、この「無心」の姿勢は、「道」の本質だといいます。森先生は「技術」を心の問題に高めた「技道」というのを提唱されています。技だけではなく、心の有り様まで変えてしまうのが「技道」なのだと思います。
最後の「禁止ではなく、やりたい方向を奨励して救う」という言葉が印象的でした。
その後の質疑応答で印象的だったのが、「最近の子供達は迷いなくものを作っているように思えますが、どう思われますか」という質問に「物を作るときには迷わせることが必要」と答えられたことです。八戸三中ロボコンでも自分のロボットの説明書が作らせたそうですが、それができるようになるまで理解するには、製作過程で迷い、考え、いろいろチャレンジすることが必要なのでしょう。誰かや何かの言うとおりに作っても、それは森先生のおっしゃる「物作り」ではないのだと思います。
鴨志田さんの講演は「考える道具『考具』としてのロボットと新しい教育サービスへの挑戦」というテーマでした。ロボット科学教育の紹介からはじまりました。ロボット科学教育では、深刻な子供の科学・理数系離れと学力低下の現状を憂い、子供に必要なのは暗記力なのか、という疑問を元に始まった、詰め込みではない教育手法で、体験的な学習を行うことを特徴としています。

株式会社ロボット科学教育の鴨志田英樹代表取締役社長
ただし、高度な知識を得るためには、単発的な工作教室ではなく、定期的に、継続的に学べる環境が必要だと考えられていて、現在、ロボット科学教育では幼稚園の年長から高校2年生までに向けた、12から13年間のカリキュラムを開発したそうです。こちらは週1回の授業だそうですが、その他、サマーキャンプ用や、一単元に特化したカリキュラムも開発しています。
なお、成果発表の場として、全国のロボット科学教育の教室から参加する「Crefus Cup」を開催したり、FLLやロボカップジュニアへの参加をしているそうです。
考え方としては、「ロボットありき」ではなく「科学教育ありき」だそうです。どうすれば子供たちが理数系を好きになるかを考えられていて、例えば、数学の公式なども、受験が終わったら必要なくなるものではなく、本当はさまざまなところで便利に使える知識なんだということをわかって欲しかったそうです。
そんな、さまざまな公式などが活用できるのがロボット作りだったとのことです。
現在は、カリキュラムのバージョンアップも行なっているそうです。現在はLEGO MINDSTORMS NXTを主に使用していますが、オリジナルのキットも試作しているそうです。「考具」として使っていけるものを作りたいとのことで、ロボット研究者と一緒に作っていきたいとおっしゃっていました。
このほか、神奈川県からの委託により、「ロボット技術検定」の設立にもかかわられたそうです。これはロボット技術者を認定するもので、具体的にはメカ、エレクトロニクス、人工知能プログラミングなど、多岐に渡る分野の知識や技能を客観的に評価し、判定するものです。特徴的なのは実技試験を重要視すること。例えば、用意された材料で課題を解決するロボットを製作し、プログラムを完成させるところまで行うといった課題になるそうです。昨年最も基本的なレベルの4級の試験を開催したところ、受験者にはロボット製作経験者や大学工学部の学生などもいたのに、90人中合格者が2人だったそうです。いきあたりばったりで受験した方も多いのでは、と分析されていましたが、暗記だけでも、行き当たりばったりでも合格できない内容になっているとのことです。今後は、神奈川県の担当となるため、実施・運営団体がまた別のところになりそうです。
内容としても、4級以上のレベルを上げたもの、各カテゴリー別の試験なども考えられているそうです。
フェリス女学院大学の内田先生は、「大学、地域、小学校との連携と今後の展開-なぜ女子大でロボットなのか?-」をテーマとした講演でした。フェリス女学院大学は文学部、音楽部、国際交流学部の3学部で、およそロボットと縁がなさそうな印象ですが、もともとは、ICTの活用のとしてロボットを考えたそうです。2003年より行われたプロジェクト型の講習会参加者でロボットグランプリの大道芸部門に挑戦し、チャレンジ賞を受賞するという結果を残しました。参加した学生のみなさんも、この経験から得たものは大きかったそうですが、ロボットグランプリにチャレンジするのは経費や、仕組みの難しさから継続するのが難しかったそうです。その後、LEGO MINDSTORMSを知り、2008年に横浜で開催されたWRO国際大会の大学生のエキシビジョンに参加したそうです。

フェリス女学院大学専任講師の内田奈津子先生
その後は、フェリス女学院大学緑園キャンパスのある地域で、地域の住民主体のまちづくり組織である緑園都市コミュニティ協会(RCA)から相談され、小中学生向けの講習会を始められたお話になりました。NPO法人ヨコハマRobot Scienceの協力を受けたり、大学とRCAの共催で2009年より年に4回から6回ずつ開催されているそうです。参加者たちは、基礎的な技術やチームで取り組むことでコミュニケーション能力やチームワークなどを学ぶとのこと。教材はLEGO MINDSTORMSを使っており、最終的には、WROやFLLにチャレンジするのだそうです。
ただ、講習会の開催自体は、内田先生個人の力に負うことが多く、学生の方々などにボランティアとして協力してもらうことがあっても、経済的な負担の大きさ、講座を継続、発展させるための人材の発掘や、教材の検討など、課題も多いそうです。お話を伺っていると、人材の発掘は重要だなと思いました。お手伝いではない、講座のこれからを一緒に進めていけるような人材が必要なのだと思います。また、印象的だったのが、小学生も高学年になってくると、塾に時間を取られてなかなか参加してもらえないそうです。受験が影響するのだと思いますが、残念な話です。
また、女子大だからといってもロボット教育にかかわれる要素はあるので、プロジェクトとして長期計画で臨みたいとのことでした。活動資金や場所の確保が必要ともおっしゃっていましたが、質疑応答でここと協力をしてみたら、やこのようなことならば協力できるかも、といったコメントがありました。地域などでロボット工作講座を開催している団体などのネットワークが上手く出来ていくと良いのだろうなあ、と考えさせられました。
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