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感電上等! ガジェット分解のススメ HYPER

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内容紹介

作りたいものがなければ、分解すればいいじゃない
必要な道具からシェアの仕方まで、ガジェット分解入門に欠かせない一冊

本書は、ガジェット分解をしたことがない方を対象に、ガジェット分解の始め方や、実際に分解して面白かった事例、メイカー文化という側面からみた分解についても解説します。
分解(リバースエンジニアリング)と電子工作(エンジニアリング)は似たようなものと見られがちですが、近いようで異なるものです。分解はより学習的で、他者(作った人)の考えを読む工程です。電子工作よりは当面必要な工具も少なく、比較的ハードルが低いといえます。
まずは気軽に始められる100円ショップのガジェットから、変わったおもちゃ、半導体チップの分解と、徐々に複雑な分解の事例を紹介します。また、分解事例や方法だけを解説するのではなく、まとめ方やシェアの方法、そこから生まれたやり取りやイベントなど、メイカー文化の観点からつながる楽しさについても紹介します。

目次

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本書解説(pp.128-129)


分解から世界に目を開こう!
  ——山形浩生

 解説、とは言ったものの、こんなわかりやすい本の何を解説するんだよ、という感じではある。本文は絵入りだけど、この解説は字ばっかだよ?
 が、字が好きな奇特な人々のために……。

 いやね、モノづくり、というとハードルが高いんだ。小学校時代、『子供の科学』などを見て電子工作にちょっと興味が出て父親のはんだごて(60Wの、こて先をやすりで削るやつだったんだよね……)で、なんかゲルマラジオとか作ってみたんだけど……、動かないんだよ。
 今ならわかる。とにかく当時はぼくにまったく技能がなかった。昔の「作品」を見ると、はんだづけはひどいしトランジスタの根本溶けてるし。もっと経験積めば済む話だけど、当時は練習する材料を手に入れるほどのお小遣いもなく、さらに失敗すると打ちのめされ感で、何がいけなかったのかもわからず不安ばかりで、小学生は泣きそうだ。そしてお小遣い的、技能的に作れそうなものというと、雨だれ音発生器とか、作ってどうすんだコレ、みたいなものばかり。やがて心折れて挫折して、それっきりだ。
 その点、分解はいいぞ!

 まず、できているものがベースだから、「これは何のためのもの?」という悩みはそもそもない。100均商品なら、昔のぼくのお小遣いでも買える。いや、買わなくてもいい。一回使ってそれっきり、なんていう100均グッズは家にいくらでも転がっているはず。「動かない……」とかいう挫折はない。そもそも壊すのが目的だもの。
 そして自分で作ろうとすると自分の技能が問われるけれど、他人のやっていることにケチをつけるのは、とっても簡単だし、上から目線になれて気分がいい。「なんだ、こんな貧相なはんだづけしてやがるぜ、ワッハッハ。オレがやり直してやろうか」「え、こんなチャチな中身なのか、醜いジャンパ線使わずプリント基板おこせよーwwww」「中身スカスカじゃーん、XX製はしょうもねーなー」などなど。そしてざっと見たら投げ捨てればいいだけ。安上がり。楽。無責任。「こんなのなら自分にもできるぜ!」という優越感。
 (とはいえ、最近の100均商品って、なんか信じられないほどレベル上がっているし、分解しても昔のように簡単に見下せないどころか、むしろ「これが100円とはもったいのうございます!」とひれ伏したくなることも多い。が、それはそれで勉強になりますです)。
 でも……それをちょっとやるうちに「こんなしょぼい中身なのか」が「こんなしょぼい中身でここまでのことができるのか」という驚きに変わる。ただの手抜きに思えたものが、どうも機能とコストのギリギリの妥協の産物なのがわかってきて……。

 はい、ここまでくれば、あなたはすでにこの本の磁場に取り込まれている。第1章にあるように、分解は設計者との対話だ。本書のノウハウを活用して、いろんなものを分解してみよう。本書を読んでも分解の道は奥深い。本書で説明されている高度な失敗以前に、ゴム足の裏に隠しネジがあるのに気がつかずにケースを思いっきりこじ開けて破壊したり、構造をよく確認せずにケーブルを引きちぎってしまったり。でもそんなレベルから、本書の著者たちのような分解名人への距離は、実はそんなに遠くなかったりする。

 そして本書は、単なる電子工作/破壊ノウハウ集に留まらない。分解というと、内にこもった暗い孤独な世界に思える。そういう側面もあるのは否定できない。でもいまや、その状況は変わりつつある。まず、日本の中だけでも同じような関心を持った人はたくさんいる。そしてかつてはホビイスト向け雑誌など非常に限られた接点しか持てなかった人々が、いまや大きな開かれたコミュニティを作りつつある。本書の著者たちは、そうした連中のコミュニティの核だったりするのだ。その話が第6章になる。

 さらに日本だけではない。もはや電気電子製品は世界共通だ。そして世界中どこにでも、きみたちやぼくとそっくりの、工作マニアやエレクトロニクスマニアのおたくたちがたくさんいる。第5章に紹介されている世界の電気街は、そんな連中の蠢くたまり場だ。

 多くの国には、ショボくてもそういう地区がある……とはいえ、欧米にはほとんどないんだよね。なぜだろう。が、そうした場所の様子を見るだけでも、その地域の傾向は見えてくる。そういう地区は、経済発展の一つの指標でもあるからだ。
 ほとんどの国では、工業発展の第一歩は繊維産業だ。軽い材料で、低技能の労働集約で成り立つからだ。でもそこから一歩出て、国民が少し豊かになるとスマホやゲーム機や電気製品を買えるようになる。するとそれを相手にまずは輸入電気製品販売、次に修理屋が集まる。繊維製品よりは付加価値が高く、少しは知識も必要だ。でも比較的軽くて小さいし、大したインフラはいらないから、足は速い。ちょっとしたビルが数か月でものすごい電子街集積になる。それに毛が生えれば電気電子の組立てと、簡単なプラスチックの射出成形の組立て——100円ショップの製品やおもちゃ、粗雑なスペアパーツくらいから、次第に独自の改造品が出てくるようになれば、次の産業への足がかりにもなって……。

 分解を通じた目があれば、そうした製品のレベル感もわかる。そこをうろついている連中を見ると、なんとなくその分野を支える人材の様子もわかる。地域の電気街からその国や都市の産業状況まで見えてくる、かもしれない。日本、東南アジア、中国、どこもそういうプロセスを経てきた。今後、アフリカにそれができるはず。そしてその一方で本書にもある通り、まさに足が速いからこそそうした電子街はすぐに変わる。それはその経済の豊かさの反映だったり経済構造変化の反映だったり。何回か通ううちにその変化ぶりから、その地域や世界の産業トレンドもかいま見えてきたりする。

 だからうまくいけば、目の前の100均LEDライトやファンの分解から、グローバルな地域発展や経済が見える目すら生まれてくる、かもしれない。本書はそんな世界への入口でもある。さあ、本書を片手に、100均に出かけてまずはぶっ壊そう。そしてそこから秋葉原に、ネットに、世界に出かけよう。そうこうするうちに、ぼくや著者たちともどこかで出くわすはず……あ、でもその前に、第4章はしっかり読んで安全対策だけはぬかりなくお願いしますよ!

※ この文章は、本書pp.128-129に収録されている「解説」の内容を掲載したものです。






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