内容紹介
ゲーム理論から社会ネットワーク構造を明らかにする!
▼社会ネットワーク分析とは
人と人が集まると社会が形成されます。人々には、家族であれば親子関係、婚姻関係、企業であれば上司と部下、同僚などの関係性があります。こうした関係はAさんとBさんの関係といった個々の関係を見るだけでは不十分であり、例えば、王族の家族関係は親子関係・婚姻関係の全体を見ることで、王位継承の争いをより深く理解できます。企業内でも、フォーマルであれ、インフォーマルであれ、誰と誰がより密な交流をしているかを全体として把握することで、企業内の派閥を確認でき、誰が出世しやすいかが見えてくるかもしれません。こうした個々の関係を超えた、集団や社会全体の関係、言い換えると、社会に存在する構造を明らかにする学問が社会ネットワーク分析です。
▼ゲーム理論
他方、人は意思決定を行う主体にほかなりません。家族内では、子どもは学校でどのような行動をとるか(勉強するか、部活に打ち込むか、遊びに徹するかなど)を決めていき、親も子どもをどのようにしつけるかについて意思決定をしていきます。企業内でも、社員はそれぞれ意思決定をしながら、企業全体のパフォーマンスが決まっていきます。このときに、自分の望ましさは必ずしも相手の望ましさと共通にはなりません。子どもは勉強したくないし、親は勉強をさせたい。部下はサボりたいかもしれないし、上司はもっと頑張ってもらいたいかもしれない。こうした状況では、相手の行動に依存して、自分の取るべき行動が変わっていきます。こうした状況は駆け引きのある状況と言え、このような状況を分析する学問がゲーム理論です。
経済学や社会学を専攻する学部学生をはじめ、理論的な社会分析に興味のある社会人を主な読者対象として、ゲーム理論とRを通じて、社会ネットワーク分析を学ぶものです。
〈RとRStudioのインストール動画〉
https://youtu.be/kWp8wosREzk
このような方におすすめ
◎経済学部・社会学部の学部4年生,院生
○社会ネットワーク分析,ゲーム理論,意思決定理論に興味のある社会人
目次
主要目次
第1章 ゲームとネットワークの記号表現
第2章 ゲームとネットワークの記号表現の活用
第3章 閉鎖性とネットワーク
第4章 ネットワーク上の公共財供給と進化ゲーム
第5章 ネットワーク形成についてのゲームとペアワイズ安定
第6章 直接的なつながりの指標としての次数
第7章 間接的なつながりも含めた中心性
第8章 固有ベクトル中心性
第9章 ナッシュ均衡と中心性
第10章 社会関係資本と拡散中心性(三つの中心性の統合)
詳細目次
第1章 ゲームとネットワークの記号表現
1.1 主体と戦略に注目するゲーム理論
1.1.1 主体とその集合
1.1.2 意思決定を行う主体と戦略
1.2 点と線からなるネットワーク
1.2.1 点と線の集合
1.3 ゲーム理論の三つ目の要素としての利得
1.3.1 利得
1.3.2 ゲームの三要素をより見やすく表現する方法:表とゲームツリー
1.4 ネットワークの方向と行列表現
1.5 Rでのネットワークの表現
コラム 非協力ゲームと協力ゲームの違い
第2章 ゲームとネットワークの記号表現の活用
2.1 安定な状態について
2.2 利得表に対する具体的なナッシュ均衡の求め方
2.3 距離とさまざまな経路(パス、トレイル、ウォーク)
2.4 パスの応用
2.4.1 ゲームツリーの特徴について
2.4.2 コンポーネントについて
2.5 隣接行列の掛け算とさまざまなウォーク
2.5.1 隣接行列の中のベクトルの意味
2.5.2 行列とベクトルの掛け算
2.5.3 隣接行列の掛け算
2.6 Rによるベクトルや行列の掛け算
コラム 弱い紐帯
第3章 閉鎖性とネットワーク
3.1 閉鎖的なネットワークの効用
3.2 相互性と推移性
3.3 ゲーム理論的な解釈
3.4 ネットワーク全体の指標
3.5 Rによる相互性と推移性の導出
コラム 期待値について
第4章 ネットワーク上の公共財供給と進化ゲーム
4.1 公共財とは
4.2 ネットワーク上での公共財供給
4.2.1 ネットワークの分類とゲーム
4.2.2 星形ネットワークの均衡
4.2.3 円形ネットワークの均衡
4.2.4 完備ネットワークでの均衡
4.3 進化的な視点の導入
4.3.1 星形ネットワークの一人勝ち均衡の安定性
4.3.2 星形ネットワークの一人負け均衡の不安定性
4.3.3 円形ネットワークの格差均衡の安定性
4.3.4 円形ネットワークの平等均衡の不安定性
4.3.5 一般的なネットワークの均衡と安定性
コラム ネットワークと哲学
第5章 ネットワーク形成についてのゲームとペアワイズ安定
5.1 ペアワイズ安定
5.2 コネクションモデル:基本的な考え方
5.3 コネクションモデルのペアワイズ安定なネットワーク
5.3.1 より極端な状況
5.3.2 星形ネットワークが安定となる状況:存在するリンクの安定条件
5.3.3 星形ネットワークが安定となる状況:存在しないリンクの安定条件とまとめ
5.3.4 他のペアワイズ安定の例
5.3.5 ネットワークは分割されるのか?
5.3.6 主張のまとめ
5.4 コネクションモデルでの効率的なネットワーク
5.4.1 極端な状況について
5.4.2 星形ネットワークについての分析
5.4.3 ネットワークは分割されるのか?
5.4.4 主張のまとめ
5.5 コネクションモデルでの安定性と効率性について
5.6 Rによるペアワイズ安定の確認
コラム 囚人のジレンマゲーム
第6章 直接的なつながりの指標としての次数
6.1 個人に注目した中心性の指標
6.2 ネットワーク全体に注目して:集団の代表値
6.2.1 個人の直接のつながりの代表値(1):次数の平均
6.2.2 個人の直接のつながりの代表値(2):密度
6.2.3 標準化した次数
6.2.4 上場企業ネットワークの次数中心性、平均次数、密度
6.3 次数のばらつきの指標
6.3.1 分散によるとらえ方
6.3.2 最大値からの散らばりとしての中心化
6.3.3 上場企業についての中心化の推移
6.4 Rによる密度や中心化の導出
コラム 調整ゲーム、ピア効果、自分が変わると相手も変わる
第7章 間接的なつながりも含めた中心性
7.1 他のすべてのノードの距離を含めた近接中心性
7.1.1 他のすべてのノードの近さと中心性の定義
7.1.2 近接中心性についての平均
7.1.3 近接中心性の散らばりに関する代表値 (分散)
7.1.4 近接中心性の散らばりに関する代表値 (中心化)
7.1.5 企業ネットワークでの近接中心性のランキング
7.2 他者と他者の媒介を含めた媒介中心性
7.2.1 媒介としての役割
7.2.2 媒介の定義
7.2.3 媒介中心性の標準化
7.2.4 媒介中心性の平均
7.2.5 媒介中心性の散らばりについての代表値 (分散)
7.2.6 媒介中心性の散らばりに関する代表値 (中心化)
7.2.7 企業ネットワークでの媒介中心性のランキング
7.3 Rによる近接中心性と媒介中心性の導出
コラム 情けは人のためならず
第8章 固有ベクトル中心性
8.1 基本的な考え方と問題点
8.2 対処法1:隣接行列を修正する
8.3 対処法2:固有ベクトルを利用する
8.4 対処法1と対処法2の統一的視点
8.4.1 対処法1と固有ベクトルの関係
8.4.2 対処法1の解釈
8.4.3 対処法1と最大の固有値との関係
8.4.4 G˜ の任意の固有値の絶対値は1 以下であることの確認
8.5 固有ベクトル中心性が実数で得られるのか
8.5.1 対称行列の望ましさ
8.6 なぜ最大の固有値に対応する固有ベクトルを考えるのか
8.6.1 最大の固有値に対応する固有ベクトルの要素がすべて実数となること
8.6.2 初期の中心性から固有ベクトル中心性への収束について
8.6.3 lim_k→∞ G k1//c∗の導出
8.6.4 均衡と収束の議論との違い
8.7 固有ベクトル中心性と複数のコンポーネントについて
8.8 企業ネットワークにおける固有ベクトル中心性のランキング
8.9 対処法1と関連した収束を保証する条件:ページランクについて
8.9.1 推移確率としての解釈と収束のための条件
8.9.2 ページランク
8.10 具体的なネットワークにおけるページランクの導出
8.11 企業ネットワークにおけるページランク
8.12 固有ベクトル中心性を使うにあたっての考え方
8.13 補論:ページランクの確率推移行列でリンクの向きとリソースの流れを同じにする
8.14 Rによる固有ベクトル中心性とページランクの導出
コラム Add-Health data
第9章 ナッシュ均衡と中心性
9.1 ピア効果の経済モデルにおける均衡
9.1.1 ピア効果の定式化
9.1.2 利得最大化とナッシュ均衡
9.2 ボナチッチ・パワー中心性
9.2.1 基本的な考え方と定義
9.2.2 ボナチッチ・パワー中心性の解釈 (1)
9.2.3 ボナチッチ・パワー中心性の解釈 (2)
9.3 ナッシュ均衡とボナチッチ・パワー中心性との関係
9.4 ボナチッチ・パワー中心性の二つの定義式が同じとなる条件
9.4.1 等式の導出
9.4.2 仮定した式が成立する条件について
9.5 企業ネットワークにおけるボナチッチ・パワー中心性のランキング
9.6 ボナチッチ・パワー中心性を使うにあたっての考え方
9.7 Rによるナッシュ均衡とボナチッチ・パワー中心性の導出
コラム ネットワークの生成の実証分析
第10章 社会関係資本と拡散中心性(三つの中心性の統合)
10.1 社会関係資本と社会ネットワーク
10.2 信頼ゲーム
10.3 一般的信頼
10.4 三つの中心性を統合する拡散中心性
10.4.1 固有ベクトル中心性とボナチッチ・パワー中心性の関係
10.4.2 拡散中心性の定義とマイクロファイナンスへの応用
10.5 企業ネットワークの中心性と利潤
10.6 Rによる四つの異なる中心性の確認
10.7 補論:スペクトル分解について
10.7.1 固有ベクトルを用いた対角化
10.7.2 興味深い性質:逆行列と転置行列
10.7.3 興味深い性質:スペクトル分解
10.7.4 行列の分割とその積
今後の学びのために
参考文献
索引
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著者について
藤山 英樹 (ふじやま ひでき)
1995年 京都大学 経済学部 経済学科 卒業
2000年 京都大学大学院 経済学研究科 博士後期課程 単位取得満期退学
2000年 獨協大学 経済学部 経済学科 専任講師
2003年 京都大学 博士(経済学)
2013年 獨協大学 経済学部 国際環境経済学科 教授、現在に至る。
〈主な著作〉
『情報財の経済分析』(昭和堂、2005)
『統計学からの計量経済学入門』(昭和堂、2007)
Fujiyama, H. (2020). “Network centrality, social loops, and optimization,”Evolutionary and Institutional Economic Review, Vol. 17, No. 1, pp. 39–70.
Fujiyama, H., Kamo, Y., and Schafer, M. (2021). “Peer effects of friend and extracurricular activity networks on studentsʼ academic performance,” Social Science Research, Vol. 97, 102560.
Fujiyama, H., and Fujimoto, K. (2018). “Stochastic actor-oriented models for multiplex conversation-advice network dynamics based on the self-determination theory,” Sociological Theory and Methods (『理論と方法』), Vol. 33, No. 1, pp. 79–93.
https://www.dokkyo.ac.jp/research/faculty/detail/83026586/