はしがき

ディジタル信号処理技術は，幅広い産業分野において横断的に適用される基本要素技術である．そのため，新しい技術分野の登場は，ディジタル信号処理技術に対する新しい要求の登場に直結する．ディジタル信号処理は，信号サンプル列に対する処理技術である．換言すると，観測信号サンプルベクトルから望ましい出力信号を得るための射影ベクトル，もしくは望ましい出力信号サンプルベクトルを得るための変換行列を適用する操作である．その実体はソフトウェアもしくはディジタル回路で構成したハードウェアである．いずれの場合においても，高品質なディジタル信号処理システムの構築には，システム最適化が必須である．

例えば，近年のIoTに代表される情報技術の急速な発展に対して要求されるディジタル信号処理技術には，大容量データに対する高速なアルゴリズムの構築や，複雑化したハードウェアシステムの最適化技術の構築，ディジタル信号処理技術を最大限活用した新しい応用技術の創生などシステム最適化技術の研究・開発が強く望まれている．そのため，数多く存在するディジタル信号処理技術の応用分野におけるシステム最適化技術についても幅広い視点で調査することが望まれる．

そのような背景のもと，本書は，電気学会電子・情報・システム部門システム技術委員会（貝原 俊也 委員長（当時））傘下で調査活動を実施した「ディジタル信号処理システム最適化技術調査専門委員会」の調査活動報告を単行本化したものである．本委員会は平成29年7月から令和2年6月までの3年間活動を行った．活動期間中計6回の研究会を開催し，ディジタル信号処理に関する最新のシステム最適化技術について調査を進めてきた．

委員会設立にあたり，活発に研究活動に取り組んでいる若手研究者を中心に委員会を構成し，研究発表だけでなく委員会運営にも携わっていただく機会を設けた．また，研究会ごとにチュートリアル講演を実施し，基礎的内容から最新成果まで委員のみならず参加した学生にとっても価値ある内容を十分な時間をかけて議論した．このような自由な形態での活動を寛大に容認いただいたシステム技術委員会関係諸氏に深く感謝申し上げたい．

委員の専門分野はディジタルフィルタなどの基礎信号処理，雑音除去などの音声・音響信号処理，電子透かしなどの画像処理，ディジタル信号処理の産業応用，システム技術など多岐にわたる．本書は，計12名の委員の成果をまとめたものである．

ディジタル信号処理技術は，研究対象として興味深さを与えるだけでなく，産業界における実践的な技術でもある．本書は双方の視点でまとめられており，ディジタル信号処理技術の研究に関わる学生・研究者，現場でディジタル信号処理技術に携わる技術者にとって価値ある情報を提供できることを期待している．

2021年9月

電気学会・ディジタル信号処理システム最適化技術調査専門委員会
陶山 健仁

電気学会・ディジタル信号処理システム最適化技術調査専門委員会委員一覧

委員長
陶山　健仁（東京電機大学）

委員
青野　俊宏（日立製作所）
今泉　祥子（千葉大学）
桂井　麻里衣（同志社大学）
川村　　新（大阪大学）
越田　俊介（東北大学）
杉浦　陽介（埼玉大学）
高橋　智博（東京理科大学）
中本　昌由（広島大学）
満倉　靖恵（慶應義塾大学）
村上　隆啓（明治大学）
吉田　　壮（関西大学）

幹事
八巻　俊輔（東北大学）

［委員は50音順．所属は委員会発足時点］

執筆箇所・執筆者一覧

第1章　陶山 健仁（東京電機大学）
第2章　越田 俊介（八戸工業大学）
第3章　八巻 俊輔（東北大学）
第4章　高橋 智博（東海大学）
第5章　中本 昌由（広島大学）
第6章　川村 新（京都産業大学）
第7章　村上 隆啓（明治大学）
第8章　杉浦 陽介（埼玉大学）
第9章　青野 俊宏（日立製作所）
第10章　今泉 祥子（千葉大学）
第11章　桂井 麻里衣（同志社大学）
第12章　吉田 壮（関西大学）

［所属は本書出版時点］